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航海日誌No.74 「漁師の誇り」


2012年7月31日

4時半起床。荷物をまとめて5時半に港へ、随伴船“えびす丸”の渡辺さんと挨拶を交わし、
簡単な打合せをし、出港準備を整え6時、直江津港を出港。
出港時間の6時は、えびす丸の渡辺さんの提案だった。
気温が上がって熱くなる前に航海をしようという考えだ。まったく賛成である。

早朝の航海は気持がいい。今日の日の出時間は4時46分。
最近は5時前には辺りは明るくなっている。朝日を全身に浴びながらの航海。
海鳥が朝日に向かって飛んで行く。体を通り過ぎて行く風が、冷たく心地よい。
柏崎に船を向けると、淡白くほんのり桃色をした朝特有の光に包まれた山々と、ポッコリと空に膨らんだ岬が見える。
針路をポッコリした岬に定め、船を進めた。

8時を過ぎると、日差しは強くなり、ぐんぐんと気温が上がっていっているのが分かる。
気がつくと汗がにじんでいた。
波も相変わらず穏やかで、船首から海を覗くと、
海面に写り込んだTANeFUNeの船底と、縁から覗く自分の顔を見ることができるほどだった。

途中、県の天然記念物に指定されている、コウモリ生息地である福浦猩々洞(ショウジョウドウ)に船を近づけてみた。
奥行は80mで、奥の方に幅30m、長さ20m、高さ10mの岩室があり、
ヒナコウモリ科の「ニホンユビナガコウモリ」と「ニホンモモジロコウモリ」、
キクガシラコウモリ科の「ニホンキクガシラコウモリ」と「ニホンコキグガシラコウモリ」の4種類約1万頭が生息しており、
このように多種のコウモリが混ざって生息する例は、全国的にも珍しいそうだ。

洞窟への侵入を試みたが、TANeFUNeという船は、まるっこくて背も高く、
洞窟の入口辺りに少しだけ入れる程度だったので、コウモリを見ることはできなかった。
洞窟内は、入口でも充分にひんやりと冷たく、
天井のあちこちからポタポタと水滴が落ち続けており、熱く乾いたTANeFUNeのデッキを潤した。
辺りを見回すと、揺れる海面が外からの光を反射し、少し怖いような独特の雰囲気を演出していた。

洞窟を離れ、9時ちょうどに柏崎港に到着。
係留場所を貸してくださった港湾工事の会社である植木組の黒崎さんと、漁協の保坂さんに入港の報告に行き
、その後、随伴船を探してくれている、船のエンジンや漁船機械を取り扱っている宮原発動機の佐藤さんを訪ねた。
佐藤さん

「おう!到着したか。まだいろいろ連絡してるとこで、随伴船決まってないから、もう少し待ってくれ」

とのことで、また、お客さんと打合せの最中だったので、ご挨拶だけして、その場を離れ、
柏崎港から寺泊港までの随伴船に関しては、佐藤さんからの連絡を待つことになった。

風呂に入り、お昼を食べ、宿に荷物を預け、次なる港である寺泊港に停泊許可と随伴船交渉に動いた。
寺泊港は、ここ柏崎港から約40km離れた港。車で1時間近くかけて移動し、到着した勢いで、そのまま漁協の扉を叩いた。
入って正面に、お相撲さんのような大きな体の男性が座って、タバコを吸いながら作業をしている。
なんだか今までの漁協と雰囲気が違う。挨拶をし、すぐさま交渉スタート。
対応してくれた事務方の女性に、航海プロジェクトのプレゼンテーションをはじめると、
女性が奥に目配せし、こんどは奥から大柄でがっちりとした風貌の男性が出て来た。

組合長だ。

いかにも港の首領といった迫力のある方だが、自分の話を聞く、目の奥から優しさを感じた。

全体の説明をした後、要点である停泊許可と随伴船探し、その2点を伝えた。
漁協にいた3人全員が難しい顔をしている。

漁協の男性:「うーん。停泊は問題ないけど、そんな暇な船は、今ないな。夏場はみんな潜ったりして漁をしてるし、、、」。

たいがい、こうして、まず距離をとられる。
そして次に「お金はいくらくらい出せるの?」という質問がくる。
ここからが勝負である。

前のめりになって、今まで各港で協力してくださった随伴船の方にリレーしてもらって、ここまで来たこと、
もうすぐゴールの新潟港であること、などなど、言葉に気持を乗せて、丁寧に強く伝えた。
途中途中やってくる船の特徴などに対する質問には、素早く的確に答え、
遊びでやっているのではないという気持が伝わるように話をした。

こっちが引かないのが伝わったのか、組合長が携帯を出して、
どなたかに電話をかけ、企画主旨を伝えてくれた。途中、話が詰まると、
「直接やってくれ」と携帯を渡され、そこから電話で直接交渉。
そして、気持が伝わったのか、なんと!その電話で随伴船を出してもらえることになった!

随伴船を出してくれるのは“薩摩”の中里さんという方。まだ、会ってもいないのに、本当にありがたい。
寺泊港から出港する時は、ちゃんとお礼を伝えたい。

随伴船交渉も、プロジェクト終盤を迎え、伝えるべきことやキーワードなどが、はっきりしたようで、
また、海関係者の方々の塩梅もなんとなく掴めてきたので、
強く言う所や、言葉を待つところ、といった駆け引きをできるようになったように思う。

とはいえ、到着して、こんなにすぐに随伴船が決まった港はなかった。
電話での話の内容を聞いていた漁協の男性が「よかったねぇ」と声をかけてくれる。
その方は、ここの無線局局長であり、まき網担当の河野さん。
河野さんに、何の魚が獲れるのかなど、寺泊港の話を聞かせてもらった。

興味深かったのが、ここ寺泊の漁協は独立でやっているということだった。
今まで寄った新潟の港の漁協はどれも、上越漁業協同組合◯◯支所や新潟漁魚協同組合◯◯支所といった名称で、
上越や新潟といった大きな範囲の漁業協同組合の1つの支所であった。
聞く所によると何年か前に統合し、今の体制になったらしい。

ところが寺泊は“寺泊漁業協同組合”という名で、単独でやっている。
その理由を聞くと、

「大きな組合に入ってしまうと、自分たちの好きなやり方で漁ができなくなる。
漁の仕方まで指定される。
うちの港は個性的な漁師さんばかりで、みんなそれぞれどうやったら魚がたくさん獲れるか自分で考えて、
いろいろ自分のやり方で漁をする漁師ばっかだから、そういうのがあって、寺泊独立でやってる」

という。

この話を聞いて、いろいろなことに納得がいった。昔から変わらないような漁協事務所の独特の雰囲気。
交渉していきなり随伴船が決まること。それらの理由は、独立した港だからだ。
漁師であり、そこに関わる個人が活きている。港に厚みがある。
随伴船交渉をすると、その港とそこにいる漁師や関係者の海に対する、海の人に対する、懐の厚みが分かる。
今までもそうだったが、これは非常におもしろい。

寺泊は生きた港だ。漁業権を電力会社に買収されることもなく、大きな漁業協同組合の傘下に入ることもなく、
そこに生きる漁師の腕と誇りを一番に掲げ、今も魚を獲っている。ここの漁師は、さぞ誇り高く、格好が良いだろう。
今日、漁師さんに直接会うことはできなかったが、紅い船や黄色い船、船形や漁具、どれも個性的な船ばかりが、
寺泊の岸壁にはたくさん並んでいた。ここの港には漁師の誇りがある。

ふと、能登半島の輪島の港を思い出した。そういえば、あそこも、いきなり随伴船が決まった港であった。
やはり、生きた港には、港の厚みがある。そんな港はすぐに随伴船が決まるようである。
困った船があるなら助けてやる。ずっとリレーできたなら、うちもその気持を次につなげてやる。
そこにあるのは、海に生きる人の心意気であり、誇りである。

しかしながら、今まで随伴船が途切れずにきたということは、TANeFUNeが寄った港は全て、
まだ、ちゃんと海に生きる人の心意気であり、誇りがあるということの証明である

寺泊の漁協の皆さんにお礼を伝え、事務所を出て、停泊場所を確認し、寺泊港を離れた。
そして、せっかくここまで来たので、新潟港の直前の港である。
ここから25kmほど先にある新川漁港まで足を伸ばし、漁協に挨拶をし、停泊場所の確認と、随伴船のお願いをしてきた。

柏崎港に変える道中。柏崎港の佐藤さんから電話が入った。

「随伴船探しで、いろいろあたってみたけど見つからなかったから、おれの“かしわ丸”を出す。」

と連絡が入った。
仕事の時間を削って、船を出してくれる“かしわ丸”の佐藤さんに感謝である。

結果、今日は2つの随伴船が決まり、それに伴いスケジュールが決まった。

柏崎港→寺泊港(8月3日朝6:00出港)。寺泊港→新川港(8月4日6:00出港)。

どうにか8月6日の新潟港への入港は間に合いそうである。
台風9号と10号が発生している。あとは天気次第。

一日を振り返ると、朝日を浴びながら40km近く航海し、
入港後に次の港の停泊許可と随伴船交渉をし、往復約130kmの道中の帰りの車内で夕日を眺めている自分がいた。
海と陸、合計170kmの移動をしながら、太陽の一日のはじまりと終わりを体感できること、
海に生きる人の誇りを実感できること、体力的にはハードであるが、なんとも言えない幸せを感じる。
だから体も喜んでいる。海と人と太陽から、パワーをもらうのである。

太陽と共に一日をはじめ、海の誇りに支えられ航海をし、太陽と共に一日を終える。日本海は本当に気持ちの良い海だ。

明日は、柏崎港に停泊予定。

(テキスト:五十嵐靖晃)

記録

日時 7月31日(火)20:00 天気 晴れ
現在地 柏崎港 最高気温 33.7℃
緯度 37°21′955N 最低気温 25.4℃
経度 138°32′107E 湿度 84%
進行 第28航海 風向
航海航路 直江津港→柏崎港 風速 1m/s
気圧 1009.5hPa
航行距離 20.5海里(38km) 波高 0.5m
航行時速 7.0kt(13km/h) 降水量 0.0mm
出港時間 6:00 日の出 4:46
入港時間 9:00 日の入り 18:54
航海時間 2.9時間 満潮潮位 (2:45)39cm (11:54)48cm
船長 五十嵐 干潮潮位 (5:42)38cm (20:08)17cm
船員 喜多 森 随伴船 えびす丸(渡辺)

 

航海日誌No.74 「漁師の誇り」」への1件のフィードバック

  1. イチロー

    キャプテン五十嵐さんお久しぶりです航海のほうは無事でなによりです。気を抜かずに頑張って下さい。遠い九州の空からお祈りしてます

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