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航海日誌No.73 「随伴船交渉」


2012年7月30日

8時に能生漁港を出港し、直江津港へ向かう。夏の日本海は穏やかである。
漁師さん達は皆
「今だからこんなに海が落ち着いているけれど、冬は大時化だから、その船では絶対に無理だよ」
と言う。海岸線を車で移動していると高波注意の道路標識をよく見る。
それらは全て冬時期のためだけに立っているのだろう。

今日も連日と同じように海はベタ凪。穏やかな航海で、TANeFUNeは海面を滑るように航行し、無事に直江津港に入港した。
能登半島の西海岸を行った頃の航海が嘘のようである。

今日の随伴船は、初栄丸という遊漁船で14人もお客さんを乗せることができる大きな釣り船。
船体は朱色で縁にエメラルドグリーンのラインが入っており、海上では遠くからでもとてもよく目立つ。

船長さんは安藤さんといい、18年釣り船をやっているベテラン。
その前はタクシー運転手をしていて、福岡の博多にいた。56才の時にここ新潟に来て釣り船をはじめたという。
新潟に来た理由は、福岡の海に比べて、すぐ近くの海でいろいろな種類の魚を釣ることができるからだそうだ。

そして、初栄丸にはもう1人、副船長の森川さんが乗っている。
森川さんは、しっかり者の船頭さんといった印象で、海と釣りが好きで、あまり細かなことは気にしなそうな、
船長の安藤さんとのコンビはバランスが良いように思えた。
燃料代などの随伴船交渉は、安藤さんはノータッチで、森川さんが行う。

随伴船交渉をする際、随伴船を出してくれる船の方に支払う代金に関して、いくつかのパターンがある。
それは、今までの航海での交渉を通して、自然と出来上がったものである。

基本は3つ。

  1. 無償で協力してもらえるパターン。
  2. 燃料代のみ支払うパターン。
  3. 船の貸し切り代金を支払うパターン。

3に関しては、交渉中の話題にあがることはあったが、実現したケースは、ほとんどなかった。
そして、ご協力いただいた随伴船の方に、感謝の気持を込めて、TANeFUNeグッズをお礼としてお渡ししてきた。

とはいえ、正確には、交渉状況や航行距離、スケジュール、船を出してくれる方の気持などなど、
その時、その時によって1つとして条件が同じものはなかった。

そして、初めて訪れる土地で、協力してくれる船と船長さんを見つけるのにも一苦労する我々には、
一緒に行ってくれるという方を選ぶ余裕などなく、1つの出会いを頼るしか方法はなかった。
振り返ると、随伴船にリレーしてもらって、本当によくここまで来ることができたと思う。
何より随伴船の皆さんに感謝である。

新潟に入ってからの随伴船交渉の印象としては、お金に関する損得勘定が、まずはじめにあるような感じがする。
今までのどこの港でも、もちろんお金の話はあった。
漁師さんも遊漁船も、船を出すことは仕事であり、燃料もかかるから当然なのだが
、それに比べても、企画の話と併せて随伴船の話をすると、企画内容よりも、まずお金の話になるような印象だ。
それが、いいとか、悪いとかという話ではなく、なぜそうなるのか考えた。

そこには、港まわりに関する経済状況と過去の出来事の影響があるのだと思う。
ここ新潟の港は大きな港が多く、その港の周りは大きな都市であるケースが多い、
都市の経済循環と田舎の経済循環と金銭感覚の違いが1つある。

そして、この辺りは、原子力発電所や火力発電所が多い。
発電所建設時やその後も、海に関する調査や、原発の調査で船を出す際に、国やマスコミから多額の金銭を受け取っている。
そういった下地があるから、
船を出してもらえませんか?という交渉に対する最初の言葉が、いくら出せるの?ということになるのだろう。
ここでは、それがごく自然なことなのだ。

もちろん全員が全員そういうわけではない。
そして、こういった状況であり、感覚にある人達に文句をいうのもおかしい。
突然、巨大な金額を、避けられないような状況で押し付けられてきた結果が、今である。
残酷なお金の使われ方は、その土地に残酷なお金の文化を残す。

随伴船交渉を通して、その土地の海辺で、どんな風にお金が機能してきたのかが、浮かび上がってくるようである。

明日は、6時出港で、直江津港から柏崎港へ航海予定。

 

(テキスト:五十嵐靖晃)

記録

日時 7月30日(月)21:00 天気 曇り
現在地 直江津港 最高気温 32.7℃
緯度 37°11′672N 最低気温 25.9℃
経度 137°16′004E 湿度 78%
進行 第27航海 風向 東南東
航海航路 能生漁港→直江津港 風速 1m/s
気圧 1007.3hPa
航行距離 18.9海里(35km) 波高 0.5m
航行時速 7.0kt(13km/h) 降水量 0.0mm
出港時間 8:00 日の出 4:45
入港時間 11:00 日の入り 18:55
航海時間 2.7時間 満潮潮位 (10:50)48cm (**:**)**cm
船長 五十嵐 干潮潮位 (**:**)**cm (19:16)18cm
船員 喜多 久保田 随伴船 初栄丸(安藤・森川)