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航海日誌No.66 「湾と外海の距離感覚の違い」


2012年7月23日

朝6時起床。
昨日の滑川春網ホタルイカ定置組合・副組合長の水井さんとの約束通り、一升瓶を持って、6時15分に番屋(漁師さん達の待機場所)へ。
入口に水井さんが待っていてくれた。

五十嵐:「おはようございます」
水井さん:「おお、一升瓶持ってきたか?」
五十嵐:「はい」

と手渡す。そして、そのまま番屋を案内してもらった。
ホタルイカの収入が安定しているのだろう、番屋と言えども立派な二階建ての建物で、雰囲気としては漁師の秘密基地である。
中央に畳が敷かれ、ちゃぶ台の周りには一升瓶
(最近、ここでは田苑という焼酎が流行っているらしい。隅には空き瓶も沢山並んでいた)、
干された合羽や長靴、ホタルイカを獲る網などなどなどなど、漁で使用する道具が処狭しと置いてある。
冷蔵庫は4つ(ホタルイカ漁に出る船が4隻あるので、その船ごとに冷蔵庫がある)。

ひとしきり案内をしてもらったら、朝の潜り漁に出ていた船が帰ってきた。
ウエットスーツを上半身まで脱ぎ、船の縁に腰掛けた体格の良い漁師さんが8人くらい乗っており、
荷捌き場に船をつけると、カゴ一杯に入った岩ガキをゴロゴロと広げはじめた。
一カゴには100個くらいの岩ガキが入っており、そのカゴが20個ぐらいはあっただろうか。
サイズごとに仕分けをしている。次の瞬間、その場で1つ開いて

「おい、食うか?」
「はい。いただきます」

一回で飲み込めないくらいの岩ガキを口一杯に頬張った。
言うまでもなく旨い。

その後、他の船も到着し、様々な魚が届き、一時したら、セリが始まった。
タイ、エビ、ヒラメ、カサゴ、マグロなどなど、
どれもまるで光輝いているかのように発色が良く、しばらく見とれてしまった。
特に透明感のあるエビの赤と、タイの桃色の背中に宝石のように輝く青い斑点が印象的であった。
セリは、独特の言葉が飛び交い、あっという間に沢山の魚が競り落とされていった。

「おい!準備できてるから、番屋に来い!」

と水井さんから呼ばれ、番屋を覗くと、漁師さん達がちゃぶ台を囲んで、
丼いっぱいに盛られた獲れたての岩ガキや、鍋いっぱいに入ったアンコウやバイ貝やサザエやタマネギを煮込んだ汁などを囲んで、
一杯やっていた。そこに混ぜでもらって、一緒に朝食をいただく。

「おい!好きにしろ、遠慮はするな」

と一言いただき、後は、ざっくばらんに互いの話をしながら盛り上がる。
「あんた何の仕事しとる?」
とか
「あの船で恐ないんか?」
とか
「ムラムラしたらどないしとるんや?」
などの質問があったり、
「朝と夜は、酒飲むんが、昼は飲まん」
「ここにはホタルイカ漁の取材にジャニーズやら芸人やらいっぱい来るんやで」
などなど、会話は盛り上がった。
船上にいた漁師さん達の顔は厳しかったが、一仕事終えた後は、
とても優しくユニークな人ばかりで、お腹いっぱいリアルな漁師飯を食べさせてもらった。

その後、滑川漁協参事の倉本さんにご挨拶と随伴船の交渉に行った。
番屋での漁師さんとの会話からでも分かってきたのだが、富山湾は非常に魚礁が豊富で、
ホタルイカに限らず、一年中、すぐ近くの海で魚が獲れる。
距離感覚としては、港から漁場まで、船で10分程度で到着する。
且つ、隣の港との漁場が5〜10km程度の範囲でくっきりと分かれている。
なので、隣の漁場に行くこともない。
なので、海での近い遠いの距離感が短い範囲にあるようである。
これは湾の海の特徴のようにも思える。
振り返ると若狭湾も似た感じの海の距離感を、そこの漁師さん達は持っていたように思う。

逆に、先日までいた能登半島は外海なので、遠くまで魚を追いかけて船を出すことが、当然であり、
そこの漁師さんの近い遠いの距離感は20km〜30kmくらいを基準としているように思えた。
なので、外海の能登半島では随伴してもらう一度の距離が長かったのだ。

内海である湾と外海、海が違うから漁の仕方が違い、漁に一回出る時の船での移動距離も違う。
その距離感覚が、随伴船を出してくれる距離に反映しているようである。

結果、明日、すぐ隣の7kmほど先の魚津漁港までは、宝竜丸の水橋さんに随伴してもらえることになった。
まず、それだけでも有り難いのだが、富山湾を出るまでの残りの20kmくらいは、
比較的細かく10km程度の移動で港を刻んで進む航海になりそうである。
(とはいえ、それも出会いによっては、どうなるか分からないのだが)

今回の航海で当初目指していたのは、滑川漁港から30kmほど先の宮崎漁港だったのだが、
それは能登半島感覚で我々が設定した一回の航海の距離感であった。
どうやら、こっちの思惑通りにはいかないようである。
そこの海には、そこの海のルールや感覚がある。
分かっていたつもりではあったが、やはり、行かないと分からない。
会わないと、その感覚は分からない。
海が違えば漁が違い、漁が違えば、人の感覚も違う。
このプロジェクトの面白くも、予定を立てづらい難しい部分である。

予定通り8月6日に新潟港に入港できるか、少し心配になってきた。

(テキスト:五十嵐靖晃)

記録

日時 7月23日(月)20:00 天気 晴れ
現在地 滑川漁港 最高気温 30.0℃
緯度 36°46′544N 最低気温 23.0℃
経度 137°20′823E 湿度 61%
進行 停泊 風向 北北西
航海航路 停泊中 風速 2m/s
気圧 1011.5hPa
航行距離 0.0海里(0km) 波高 0.5m
航行時速 0.0t(0km/h) 降水量 0.0mm
出港時間 停泊中 日の出 4:50
入港時間 停泊中 日の入り 19:05
航海時間 0.0時間 満潮潮位 (5:42)42cm (16:42)46cm
船長 五十嵐 干潮潮位 (11:06)32cm (23:54)25cm
船員 日比野 森 喜多 辻並 随伴船 なし