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航海日誌No.65 「富山の乙姫さん」


2012年7月22日

14時からTANeFUNeの側で宝物づくりを行った。
親子連れや中学生や小学生など、天気が良かったせいか、ほどよい人数が入れ替わり立ち代わり参加しに来てくれ、穏やかな一日を過ごした。
集った大人の方々と種車の剥がれたカラーテープの修正作業も行った。
5月19日に舞鶴を出港し、ほぼ2ヶ月が経過した。
種車のカラーテープもTANeFUNeのペイントも部分的に剥がれてきた箇所が目立つようになった。
共に風雨にさらされ、いやむしろ自分たちが宿で休んでいる間も、直射日光や豪雨などの厳しい自然にさらされてきた。
それは逞しく航海であり、移動をしてきた証のようにも見える。
ほんとTANeFUNeも種車もずいぶん逞しくなった。

航海に関しては現状、まだ滑川漁港から次の目的地である、朝日町の宮崎漁港までの随伴船を出してくれる方が見つかっていない。
滑川漁港はホタルイカの水揚げで有名な漁港で、個人持ちの船は少ない。
なので独断で船を出せる人が少なく、随伴船も見つかりづらい港である。
宝物づくりの片付けを終えた後、近くを通った1人の漁師さんと話をした。
随伴船の話をすると、

「おお、聞いてるよ。だけど行けても魚津までくらいだな」

とのこと。魚津はすぐ5kmほど先の港。目的としている宮崎漁港は30kmほど先にある。
滑川漁港から宮崎漁港までの随伴船をみつけるのは苦労しそうである。

引き続き随伴船交渉のため、地元市議会議員の水野さんの紹介で、
滑川春網ホタルイカ定置組合副組合長の水井さんに会いに、ご自宅まで伺った。
水井さんは豪快でユニークな印象の漁師さんで、

「じゃあ、家に入れ」

と家に入れてくれ、話を聞いてくれた。
結果から言うと、滑川で宮崎漁港まで一緒に行ってくれる船を見つけるのは難しいだろうということだった。
そして話は自ずと水井さんとホタルイカの話になった。

水井さんのお父さんは漁師で、自分は最初漁師にはなりたくなかったから、
30歳頃までは鉄工所で務めていたが、ホタルイカで金儲けができるから漁師をはじめた。

「人生金儲けや」

と言っていた。漁師になりたくなかった理由は、昔の漁師は臭かったからだそうだ。

「今の漁師は臭くないやろ、魚の匂いもほとんどせんし」

と言っていた。

滑川はホタルイカの故郷である。

「マグロやイワシやハタハタはいなくなったが、ホタルイカはいなくならない。ここはホタルイカの故郷やからな」

とのことだった。
ホタルイカ漁は3月末から5月末までで、桜の頃がピークだそうだ。
普段は水深200m辺りにいるが、その頃、産卵のために雌が新月の夜に海面まで上がってくる。
産卵後海底に帰ろうとするホタルイカを網で捕まえる。
網に入ったホタルイカを船に揚げるために、網を絞っていくと、身の危険を感じたホタルイカの両手の先が青く光る。
ビデオで見せてもらったのだが、その光景はとても美しく、まるで青いLEDのイルミネーションのようである。
水井さんの例えでは、光の強さはゲンジホタルの10倍とのことだったが、
自分にはイメージしづらく、その例えは少し難しかった。
いなくならない理由は、全体量の1〜2割しか獲らないから、絶対にいなくならないそうだ。

水井さんは、拍子に乗せて、こんなことも言っていた。

「竜宮城の乙姫さん、両手に青い提灯さぶら下げて、蜃気楼からアルプスの麓、ここ故郷滑川へ、桜の咲く頃にやってきて、5月末には帰ってく、おーい、また来年」。

富山湾は春の蜃気楼が有名である。
そしてちょうどその頃ホタルイカが産卵をしにやってくる。
そう、両手に提灯を下げてやってくる乙姫さんはホタルイカのことである。

「乙姫さんってイカだったんですね!」

と水井さんに聞くと、

「そうや、富山の乙姫さんはホタルイカのことや」

と言っていた。あまりに話慣れているので、すごい人だなと思ったら、毎年たくさん、
ホタルイカのシーズンになるとテレビやなんやかんやの取材が来るから、それで取材慣れされたようである。
どうやら水井さんは、ここ滑川漁港のホタルイカ漁の名物漁師さんであることが分かった。

今はもちろんホタルイカ漁の時期は過ぎた。
水井さんは

「その頃、一升瓶持ってやってこい。ホタルイカ食わせてやるから」

と、そして、気に入ってもらえたのか、最後に

「明日の朝6時半に番屋(漁師さんの待機場所)に一升瓶持って来い。岩ガキやらサザエやら食わせてやる」

とのこと。

随伴船は見つからなかったが、明日は早朝に番屋に一升瓶を持って行くことになった。

(テキスト:五十嵐靖晃)

記録

日時 7月22日(日)20:00 天気 曇り
現在地 滑川漁港 最高気温 27.5℃
緯度 36°46′544N 最低気温 22.9℃
経度 137°20′823E 湿度 71%
進行 停泊 風向 北北西
航海航路 停泊中 風速 3m/s
気圧 1010.8hPa
航行距離 0.0海里(0km) 波高 0.5m
航行時速 0.0t(0km/h) 降水量 0.0mm
出港時間 停泊中 日の出 4:49
入港時間 停泊中 日の入り 19:06
航海時間 0.0時間 満潮潮位 (5:14)41cm (15:47)47cm
船長 五十嵐 干潮潮位 (10:04)34cm (23:20)23cm
船員 辻並 森 随伴船 なし