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航海日誌No.64 「TANeFUNeという船」


2012年7月21日

7時起床。
今朝方、土砂降りの雨で何度も目を覚ました。
今日は出港できるだろうか?
随伴船を出してくれるASUKAの岩田さんと約束した出港予定時刻は10時。
とりあえず、荷物をまとめて、TANeFUNeを停泊してある海竜マリンパークへ移動。

9時過ぎには出港準備が整ったが、相変わらず雨が強く降ったり弱く降ったりを繰り返していた。
10時になり、「この雨が落ち着いたら出よう」と随伴船の岩田さんと話をした。
ところが、雨はより強く降り始めた。
マリーナの方に近海のこれからの天気詳細を調べてもらうと、30分後には雨は弱くなり、
その後は弱雨ということだったので、岩田さんとも相談し、「11時に出よう」と即決した。
見事に11時頃には雨が止み、海竜マリンパークを出港した後は徐々に天候が回復し、
滑川漁港に到着する頃には日差しがキツく、合羽を脱ぐほどに天候が良くなった。

航海自体は波も風もなく、雨も上がったので、とても落ち着いた航海であった。
たくさんの川が集まる富山湾という湾の構造なのか、最近の大雨の影響なのか、海は砂で濁り、
おそらく川から流されてきたのであろう小さな枝葉がたくさん浮いていた。
青い海を見てきた者としては、濁った海は一見残念にも思えるが、
実はこの濁りこそ、山からたくさんの栄養素を川が海へと運んできた証拠なのだという。
そう考えると、濁った海は栄養たっぷりの海ということになる。
だからたくさんの魚が富山湾には集まるのだろう。

今日の随伴線は岩田さんが船長と務めるASUKAというヨットであった。
今まで、20隻以上の随伴船にリレーしてもらってここまで来たが、意外にもヨットで随伴してもらうのは初めての経験であった。

今までを振り返ると随伴してくれる方は漁師関係者か、マリーナ関係者か、大きく2つのグループに分かれる。
海を仕事場にし、そこで生計を立て生きる漁師さんと、
週末など時間の余裕がある時に海を楽しみに来るマリーナ関係の方とは、当然海への向き合い方が違う。
なので、港にも個人にもよるが基本的に交流はない。
そしてヨットはマリーナ関係者に分類される。
ところがヨット関係者は他の2つと違いがある。

海への向き合い方は違えど、漁場へ真っすぐに向かいより早く移動する漁船も、
釣りのポイントなどへ向かう、クルーザーやモーターボートなども、より速い船であることを良しとするという意味では、
船に求める要素には重なる部分がある。
しかし、ヨットはまた別次元にいる船である。
スピードに対する感覚が違うのである。

随伴船を出してくれる方から必ず聞かれることは何ノットのスピードが出るかという質問だ。
TANeFUNeは7ノット(時速13km)なのでそう答えると、
漁師さんやクルーザーやモーターボートの方からは「おっそい船だな」と笑われ、
また「そんな船でよくここまで来たな」と関心される。
彼らの船は15ノットから30ノット、速い船は40ノット(時速80km)近いスピードが出る船もある。
しかし、ヨットの人は「7ノットです」と答えると、
「おお、速いね。こっちは5ノットだけど、とろとろ行くか?」と全く逆の反応である。

ヨットは基本的に風で動くことを目的とした船だ。
漁師系、マリーナ系のどの船よりも、より自然環境の影響を受ける。
その分、より風にも波にも潮にも地形にも船を走らせるという意味で強い意識を働かせる必要がある。
なので、より大きな自然や地球といったものと向き合っているように感じた。

ヨット、漁船、クルーザー、モーターボートなどなど、どんな船に乗るにも、
海と向き合うために、自然環境に目を向け、地球を相手にしているという意味では同じことだが、
船と、その使い方によって、見ている範囲や感じていることも違う。
そして、そのそれぞれ人達は雰囲気が違うので、あまり交流がない。
しかし、随伴船はどの船でも、出してもらえるならば、ありがたいので、一度も断ったことなどない。
結果、いろいろな船と、その船を通して様々な形で海と向き合う人と出会うことができた。

そして、随伴してもらう航海中は、その人から様々な指導を受ける。
海は経験がものを言う。
なので、一人一人その指導方法は違う。
結果、贅沢なことに、自分には多種多様の船の師匠ができ、
いろんな船を通して、いろんな船長を通して、海を学ぶことができている。
随伴船を必要とするTANeFUNeの航海でなかったら、決してこんなことはできないだろう。
そして、こんな航海をしたことがある人は、今まで存在しないだろう。

ヨットでも、漁船でも、クルーザーでも、モーターボートでもないTANeFUNeは、そのスピードも存在もいろんな船の間にある。
どこにも属さないから、どの船ともつながることができる。
随伴船を必要とする、誰かを頼らないと前に進めない船だから、誰かと出会うことができる。
港に着く度に行わなければならない随伴船交渉はもちろん大変だが、
今は、出会いの物語のきっかけをつくってくれるTANeFUNeに感謝している。

人との出会いをきっかけに、新潟で朝顔の物語がはじまり、その朝顔の物語をきっかけに、
舞鶴という土地で、人の出会いが生んだこのTANeFUNeという船は、今も、人の出会いを力に変えて航海を続けている。
たくさんの一人一人との出会いが、この船を動かしている。

明日から数日間、ここ滑川漁港に停泊予定。

 

(テキスト:五十嵐靖晃)

記録

日時 7月21日(土)23:00 天気 弱雨
現在地 滑川漁港 最高気温 24.7℃
緯度 36°46′544N 最低気温 23.3℃
経度 137°20′823E 湿度 96%
進行 第23航海 風向 西南西
航海航路 海竜マリンパーク→滑川漁港 風速 4m/s
気圧 1008.9hPa
航行距離 10.8海里(20km) 波高 0.5m
航行時速 5.0kt(9km/h) 降水量 1.0mm
出港時間 10:00 日の出 4:48
入港時間 12:00 日の入り 19:06
航海時間 2.0時間 満潮潮位 (4:48)41cm (15:05)48cm
船長 五十嵐 干潮潮位 (9:10)35cm (22:45)21cm
船員 近江 随伴船 ASUKA(岩田)