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航海日誌No.46 「狼煙の海の男」


2012年7月3日

狼煙漁港から小木港への航海。
狼煙を出て、小木に入ると、ここからやっと内海である。
そして小木港から富山の氷見港をまっすぐつないだ直線内は平水区域。
このTANeFUNeは平水区域では随伴船をつけなくてもよいというルールがある。
小木港に到着すれば、氷見までは自由に出港できるようになる。
ただし、小木港から先は、今まで出会った漁師さん達に脅されていたように、定置網が迷路のように仕掛けられた海域に入る。
なので、どちらにせよ、その海域に詳しい水先案内人がいないと不安なので、一緒に航海してくれる人を捜すという点では変わらない。
それでも、自分で海に出れ、予定をこちらサイドでコントロールできるというのは、ずいぶん気分が違うものである。
正直、早く、小木港までたどり着きたいと思っていた。

今日の航海には、地元の乗船者として、狼煙滞在期間の3泊全て宿泊させてもらった、
ゴルとリンダ夫妻の旦那さん、ゴルさんこと後藤さんに乗ってもらった。
東京出身のゴルさんは、以前パックパッカーとして世界中を転々としていたが、どこかに定住しようと決め、
どこにしようか考えた時に、海と山のある、半島しばりで土地を選び、能登半島の先の先である、ここ狼煙を選んだそうだ。
そして、ここでは、狼煙や珠洲の空き家に移住したい人に、空き家を紹介するNPOで仕事をしていた。
今はキャンプ場の管理人をしたりして、少しずつ漁師や農家など、土地の人とのネットワークを広げていって、
自分を理解してもらい、土地に入っていっている途中なのだという。
きっとまた能登の先の先に来る時には、2人の元を訪ねるだろう。
「いつでも来てくれ。俺たちいつもこんな感じやし。ここからの夕日は最高やし」
とゴルさんは言ってくれる。彼の家のデスクの壁には、狼煙の方言と書かれた手書きの紙が1枚貼ってあった。
ゴルさんはそんな人だ。リンダはそんなゴルさんを支え、美味しいご飯をつくってくれ、テキパキと黙って家の仕事をし、
珠洲焼という焼き物で皿や器を作ったりもする。
「また、来てね。ゴルと待っとるし。記念写真撮ろう」
リンダはそんな人だ。

狼煙漁港から小木港まで随伴船を出してくれる栄光丸の番匠さんは、高屋から狼煙までの随伴船も出してくれた方。
合計すると、随伴距離は45kmで、TANeFUNeを送ったあとの復路を入れると、
このプロジェクトのための航行距離は90kmきなかったのは間違いない。
なんとお礼をいったらいいのか。

番匠さんの漁の仕事終わりを待って、14時に出港。TANeFUNeのデッキには発泡スチロールの箱が1つ置いてあった。
そこには、
「珠洲の宝物と、うちのパンです。みんなで食べてください」
と書かれていた。フタを開けると中には、先日のパーペキューで出会い、宝物づくりにも家族で来てくれた、
“古川一郎のパン”の古川さんの奥さんが持ってきてくれた、いろんな種類のラスクたくさんと、
食パンを焼く型の使われなくなった、使い込まれて味のあるフタに、娘のはなちゃんの文字で“仲間”と書かれた宝物と、
「珠洲の種です」と書かれた、いくつかの植物の種が入った袋が詰め込まれていた。
取り出して、それぞれをしばし眺める、、、
“仲間”の文字が胸に刺さる。
短い時間しか一緒にいれなかったけれど、また訪ねたい人ができました。
確かに宝物受け取りました!

狼煙漁港を出ると、すぐに、もう一隻別の船が近づいてきて、水先案内をしてくれた。
一体だれの船だろう?分からないまま、狼煙の海域を出るところまで来ると、その船が反転して、こっちに近づいてきた。
船名に目を凝らす。そこには“鳥海丸”と書かれていた。

そうだ、狼煙から小木までの随伴船交渉を番匠さんの紹介でさせてもらった、狼煙の山崎さんの船だ!

あの時、山崎さんは

「狼煙の海から内海に入る事は絶対にない。すまんが番匠に相談してみてくれ」

と言っていた。

あの時、言っていたことに嘘はなかった。
でも、今日こうして狼煙の海を出るまでは送ってやるなんてことは、一言も言っていなかった。
この時、山崎さんの本当の気持が伝わってきて、涙が出た。

「自分のいる狼煙の海を出るまではちゃんと見送ってやる。」

誰もそんなことは口にしないが、みんなそれを、灯台の先まで水先案内をしてくれる鳥海丸から感じることができた。

すれ違う瞬間に

「ありがとうございました!」

と大声で、鳥海丸に手を振った。
山崎さんは、

「気をつけて行ってこいよ」

と手を挙げてくれた。こんな、頑固で、優しく、男気のある男がいる。
言葉じゃない。言い訳はしない。行動が全てだった。かっこいいじゃないか。

内海に入ると、うねりはなく、本当にツルツルの海面になった。
コンパスの針路が南を向いているのが新鮮だった。
水深10m辺りでは、海底の岩や海藻が透けて見えるほどに透明な海であった。
数日前、この辺りの海岸沿いの温泉に風呂に入りに来た夕暮れ時に、湯船から海を眺めると、
浜辺を跳ねるキツネを見たのを思い出した。海と浜と夕焼け空とキツネ。
突然やってきたその瞬間は、本当に不思議な光景で、生涯忘れることはないだろう。
珠洲の海辺のこの辺りはそんな瞬間に出会える海である。

2.7時間の航海を終え、無事に小木港に入港。
番匠さんにお礼を伝える。本当にお世話になったので、
「燃料代だけでも」と封筒を手渡そうとすると、
「それはいい、そんなんで付き合ったわけじゃないから」と笑顔で押し返された。
がっちり握手を交わして、栄光丸と番匠さんを送り出した。ほんとうにありがとうございました!

栄光丸の番匠さん、鳥海丸の山崎さん、外海の海流と内海の海流がぶつかる能登半島の先の先にある狼煙の海には、背中で語る男がいる。

TANeFUNe到着を待ってくれていた小木港の近くの小学生やお母さんが集まってくれたので、
航海の紹介をして、TANeFUNe乗船体験として湾内を回遊した。

明日は、ここ小木港から、七尾港へ航海予定。

(テキスト:五十嵐靖晃)

記録

日時 7月3日(火)23:00 天気 曇り
現在地 小木港 最高気温 23.8℃
緯度 37°18′030N 最低気温 18.6℃
経度 137°13′900E 湿度 76%
進行 第18航海 風向 北東
航海航路 狼煙(狼煙地区)漁港→小木港 風速 4m/s
気圧 1002.1hPa
航行距離 18.9海里(35km) 波高 0.5m
航行時速 7.0kt(13km/h) 降水量 0.0mm
出港時間 14:30 日の出 4:36
入港時間 17:30 日の入り 19:17
航海時間 2.7時間 満潮潮位 (3:23)36cm (12:48)47cm
船長 五十嵐 干潮潮位 (6:40)34cm (20:58)9cm
船員 喜多 後藤 菊池 随伴船 栄光丸(番匠)

 

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