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航海日誌No.45 「食という視点」


2012年7月2日

狼煙滞在3日目。今日は一日事務作業を行った。
お昼は、先日に高浜から狼煙までの随伴をしてくれ、明日は狼煙から小木までの随伴をしてくださる栄光丸の番匠さんの奥さんと、
TANeFUNeにも乗船してくれた娘のさとみちゃんがやっている“つばき茶屋”に食べに行った。
つばき茶屋は狼煙の峠にあり、窓からは海が見渡せる。
天気の良い日は、僕らも行った、ここから50km北の海に浮かぶ舳倉島も見ることができる。
定食で出てくる魚介類は番匠さんが栄光丸で獲ってきた新鮮なものばかり、
何が美味しいって、その新鮮さと味はもちろん、誰が獲ってきて、誰が調理して、誰と一緒に食べるか、それが全てつながっているのが美味しい。
舌と心が喜んで、食べるということが、心身の力になっているのがよく分かった。

昼食後は再びパソコンに向き合い、事務作業。
そして夕飯は、“なかたになほ”ちゃんのお家にお招きいただき彼女の料理を食べに行った。
なほちゃんは、JICA(青年海外協力隊)でアフリカに行ったり、他にもあちこちを旅した料理人で、
高知に定住しようと考え、行ってみたが、しっくりこず、2年ほど前に、ここ珠洲に住むことにした。
世界を料理で回った人の料理はとても美味しかった。

出会ったきっかけは狼煙漁港に着いた日の夜に、誘ってもらったバーベキューだった。
そのバーベキューは里山海山マイスターと呼ばれる30代を中心とした様々なジャンルの職種や研究者の方々の定例会のようなもので、
そこには、炭焼き職人さん、ゲンゴロウの研究者、ネット販売でも人気のパン屋さん、
シイタケ職人でありピザ屋さん、などなど様々な人達が集っていた。

ここ珠洲では、過疎化が進み空き家が増える一方、近年、こういった若い世代の移住が増えてきているという。
狼煙漁港停泊中の宿泊先を提供してくれている後藤さん夫婦も東京と富山から移住してきた。

こういった若い世代の移住がある珠洲は、これからが面白そうな土地である。
課題としては、外から入ってきた若い世代の人達だけでコミュニティを固めず、
いかにそこに永く住んできた地元の人と交流ができるかどうかだと思う。
でなければ、土地から浮遊してしまうだろう。

以前に、ここにも原発を建てる話があり、20年以上、賛成勢力と反対勢力のぶつかり合いがあったそうだ。
そして原発が建つことはなかった。
そこでの中心人物が、また、こうして若い世代が入って来やすいように、金沢大学の人間社会学の方々に対して土地を開いたり、交流したりして、今日に至る下地をつくったそうだ。

その土地に生きることは、その土地の未来をつくることでもある。
人は未来を選択し、つくることができるのだと思った。
とは言ったものの、かといって何が正解なのかなんて、その時には分からない。
未来の結果がどれくらい想像できるかどうかだろう。今の珠洲の状況もまた、もっと先の未来ではどうなっているか分からない。
それはどこの土地にも言えることである。その時、その時代に、そこに生きる人がどれくらい未来を想像して、
何を託せるか、その考える種を繋いでいけるかどうかが最重要であり、最難事でもある。意志をつなぐことは本当に難しい。

なほちゃんの料理をいただきながら、料理を介して土地に入っていく話を聞いた。
それはとても難しいことだと言っていた。

土地で採れる素材を活かして、自分が美味しいと思うものを作っても、すぐには、なかなか受け入れてもらえないことが多いそうだ。
だから、味付けを土地の人の好みに寄せてみたりする。
そうすると、土地のお母さん達の中で、その素材を使った料理のレパートリーが増えたりする。
そして、逆に土地の料理を教えてもらったりする。そうすると少し土地に入れたような気がする。

とのことだった。

“食べる”ということをしない土地はない。
調理方法は人の数だけある。そしてそれは土地に合ったものが好まれ、残り、食文化として土地に根付く。
味に言葉はいらない。食もまた、世界への入口である。
料理ができるとこんな移動もできるのか!と、目から鱗が落ちる話だった。

そして、外から“食べる”ということを意識して珠洲に入った時に、なほちゃんが出会った面白かった話も聞かせてもらった。
その話はこうだ。

すぐ近くの集落で今はトンネルが通り、すぐに行き来できるが、以前は船でしか行き来できなかったような土地関係で、
ある海藻を、そこの土地では食べるが、隣の土地では食べなかったりするそうだ。
その食文化の違いは、トンネルでつながった今も続いている。
すぐ近くなのに、同じ海藻を食べ物として扱ったり、扱わなかったりする。
そして、加工方法や食べ方も違ったりする。

船での航海で、海の違いは漁の違いを生み、漁の違いは性格の違いを生む、というような海の文化の差異を発見したりしたが、
“食べる。食べない”の違いには気がつかなかった。
そこには興味の対象への意識の問題がある。

航海がはじまった当初から、自分はこのプロジェクトにコックがいてほしかった。
食は体をつくり、体は精神をつくるという、長期プロジェクトに於ける健康管理といった側面もあるが、
食の違いを見極められる視点がまた面白いのだと、なほちゃんに会って確信した。

そう考えると、こういった航海に、もっといろんな視点をもった、専門家が同行することで、もっともっと新しい発見があったのだろう。
こんど航海プロジェクトをするときには、強く、そこを提案したい。

明日は、栄光丸の番匠さんの漁が終わるのを待って、午後2時頃出港で、狼煙漁港から小木港へ航海予定。

(テキスト:五十嵐靖晃)

記録

日時 7月2日(月)20:00 天気 曇り後晴れ
現在地 狼煙(狼煙地区)漁港 最高気温 20.8℃
緯度 37°31′560N 最低気温 19.5℃
経度 137°19′608E 湿度 83%
進行 停泊 風向 西
航海航路 停泊中 風速 3m/s
気圧 1004.0hPa
航行距離 0.0海里(0km) 波高 1.0m後0.5m
航行時速 0.0kt(0km/h) 降水量 0.0mm
出港時間 停泊中 日の出 4:36
入港時間 停泊中 日の入り 19:17
航海時間 0.0時間 満潮潮位 (2:37)35cm (11:53)46cm
船長 五十嵐 干潮潮位 (5:40)34cm (20:06)10cm
船員 森 喜多 随伴船 なし

 

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