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航海日誌No.38 「良い船の条件」


2012年6月25日

朝6時、金沢港から、ここ福浦港まで随伴船を出してくれた
“さくら丸”の木嬰さんを見送りに桟橋へ、
敦賀湾の色浜から今日までの2週間、しばらくこの航海に同行してくれていた塩野谷くんも
一度、東京にもどるので、金沢へもどる“さくら丸”に同乗させていただいた。

2人を見送って、朝食を食べて出港準備を整え、
随伴船“海裕丸”の佐々さんと合流し、8時出港。
福浦港を出てすぐに大きな定置網が2つあるので、それをかわすために真西に針路をとって、しばらく進む。
穏やかな波と風だったので、すぐに熱くなり、カッパと長靴を脱いで短パンになる。
ところが、20分ほど走って、海士埼(あまさき)を廻った辺りから突然、風と波が強くなった。
急いでさっき脱いだばかりのカッパと長靴を着込む。

海士埼には風無(かざなし)という名の港がある。
風無とはよく言ったもので、本当に風無を越えたところから風が吹きだした。
ここからがハードな航海となった。
北東方向から吹く風とそれに煽られて起こった白波を正面から受ける形で航行。
次から次へと迫り来る波の壁に向かって進む。
波を越える度に海水を頭からかぶる。
波も一定方向からだけ向かってくるわけではないので、その都度微妙に舵を合わせた。
こうなったらもう波にびびって、船を変な方向に向けたら負けだ。
迷ったら、より危険になる。TANeFUNeを信じるしかない。
TANeFUNe設計士の西嶋さんを思い浮かべ、
舞鶴出港時

「船、楽しませてもらいます!」

と握手を交わした時の事を思い出す。今がその時だ。

人の顔が浮かぶと心が強くなる。
この船は、たくさんの人の顔が浮かぶ、心を強くさせてくれる船だ。

絶対に大丈夫。

心を強く持ち前へ進んだ。
随伴船から見ると、途中TANeFUNeは波に半分くらい消えて見えないくらいだったそうだ。
海から見ると真っ赤な岩が見える赤神埼を越えて、
鹿磯港が見えた時の安心感は今までの航海では感じなかったものであった。
最後の定置網を気にしながら、無事に鹿磯港に入港した。

やはり、今まで出会った海の男達に気をつけるように言われ続けてきた能登半島越え
、小さなTANeFUNeのような、しかもゆっくりしか走れない船で、
この海域を行くのは簡単なことではないということを、身をもって感じた。
そして逆に、この船の安定性を確認し、
船としての信用度が上がった航海でもあった。
TANeFUNeは波に強く、心を強くしてくれる良い船である。

そして、ライフジャケットは大事である。
こういう怖い思いをしないと、その大事さは分からない。
金沢港、大野マリーナの木嬰さんは落ちても
ライフジャケットを着ていれば助けてもらえる可能性が上がると言っていた。
越前漁港の山下さんは、ライフジャケットを着ていれば、
遺体を回収できる可能性が上がると言っていた。
人は海で亡くなると一度だけ浮かんでくるが、
その後は深く沈んでしまうので発見できなくなるそうだ。

死なないためのライフジャケット、死んでも回収してもらうためのライフジャケット、
ライフジャケット着用の意味合いは、それぞれの経験からの違いはあれど、やはり大事である。
海は1回の事故が死につながることが多い。
十分な注意が必要だが、事故というものは起きる時は起きるものである。
陸に戻ると、人と会えること、美味しい食べ物があること、
風呂に入りながら海をゆっくりと眺められること、生の幸せを強く感じることができる。
海には死がすぐそばにあり、海に出ると生が輝く。

鹿磯港で、ここまで随伴してくれた“海裕丸”の佐々さんと話をした。
佐々さんは今度の7月9日で81才になる。
耳が遠いから大声で話をしないと聞こえない。
でもなぜか海の上では話が通じる。海に出るとやはり、生が輝くのだろう。

別れ際、

佐々さん
「あんたらも気いつけてな」

五十嵐
「佐々さんもお元気で、福浦行く時にはまた挨拶に行きますね。ありがとうございました」

と言葉を交わす。
係留ロープを解いて、くるりと船を回して海裕丸は徐々に小さくなっていく。
操舵室の窓から出てきた手がゆっくり上下した。

今夜は、明日、随伴船を出してくれる
“GENKIMARU”の高森さんのお家に泊めていただけることになった。
高森さんの話では、この時期の能登半島は日中、北東の風が強く吹き、
夕方15時過ぎからパタリと風が止むそうで
、鹿磯から輪島に向かうなら夕方が良いだろうとのことなので、
明日、輪島へ向かう航海の出港は15時頃の予定。

(テキスト:五十嵐靖晃)

記録

日時 6月25日(月)20:00 天気 晴れ
現在地 鹿磯港 最高気温 18.4℃
緯度 37°17′541N 最低気温 17.8℃
経度 136°43′531E 湿度 80%
進行 第15航海 風向 北東
航海航路 福浦港→鹿磯港 風速 5m/s
気圧 1009.0hPa
航行距離 18.9海里(35km) 波高 1.0m
航行時速 7.0kt(13km/h) 降水量 0.0mm
出港時間 8:00 日の出 4:33
入港時間 11:00 日の入り 19:17
航海時間 2.7時間 満潮潮位 (7:08)33cm (17:28)36cm
船長 五十嵐 干潮潮位 (0:18)15cm (12:15)27cm
船員 喜多 随伴船 海裕丸(佐々)

 

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